廣田

廣田 奈美

日本事業展開担当

美術館の音声ガイドの台本はどう書く?

美術館の音声ガイドの台本はどう書く?

博物館の中には、初めてオーディオガイドの作成に直面し、何から始めればよいのかわからないというところもあります。数ヶ国語で展示されている情報を補完し、さらに理解を深められるような、洗練されたミュージアムオーディオガイドを作成したい場合、以下のヒントがお役に立つかもしれません。


音声ガイドのスクリプトを書く際に考慮すべき点には、次のようなものがあります。

ガイドを聴くロケーション(スポット)のリストを作る

読むためではなく、聴くために書く

文脈を考慮した文章を書く

キュレーターやアーティストの音声を録音することを検討する

音声ガイドの時間を計算する


音声ガイドに表示させたい展示物を選んでください

たとえあなたのミュージアムが非常に小規模であっても、展示されているすべての展示物について解説したオーディオガイドを作成することは不可能でしょう(もちろん望ましいことでもありません)。特に多言語で作成する場合、オーディオガイドの作成には費用がかかりますし、来館者が多すぎる内容に圧倒されてしまうかもしれません。必要最低限の内容から始めることをお勧めします。必要であれば、後でいつでも新しいスポットや言語をオーディオガイドに追加することができます。

音声ガイドの原稿を書き始める前に、紹介したい展示物のリストを作る必要があります。このリストはハイライトしたい作品に来館者の注意を引く間接的な方法でもあります。この決定は簡単ではありませんが、参考になる基準がいくつかあります。

  • 歴史的または芸術的に価値の高いもの、すなわち、音声ガイドに欠かすことのできない美術館のハイライト
  • 説明なしではその機能や意味を理解することが難しい展示物
  • 芸術的にも歴史的にもそれほど重要な作品ではないが、忘れがたい裏話がある
  • その意義や価値とは関係なく、多くの人々の注目を集める作品

このリストに載せる展示物の数は、美術館の規模、予算や時間など、さまざまな要因に左右されます。

来館者が作品に注目するのは、まだエネルギーに満ちあふれ、 美術館の疲れも取れていない見学の最初が一般的です。科学的な研究によると、30分も経つと来館者は集中力を失い、展示物の前に立って説明を聞くことが難しくなるといいます。そのため、オーディオガイドの対象物の数を増やしすぎると、最初の数室で観客は情報過多となり、最後の展示室では圧倒してしまう危険性があります。

30分のオーディオガイドは約15~20のスポットに相当します。


読むのではなく、聴くためのテキストを用意する

聴くときの集中力は、読むときとはまったく違います。執筆中、オーディオガイドがどのように聞こえるかを頭の中に入れておくことが大切です。

  • 数値データは必要不可欠なものに絞り込む: キャンバスの大きさをセンチメートルで表すことは、展示品の横に表示するには適切な情報かもしれませんが、音声ガイドのスクリプトにはふさわしくない
  • 最終案とする前に文章を声に出して読む: 例えば、「Picasso (Malaga 1881 - Mougins 1973)...」と書くと、「Picassoは1881年にMalagaで生まれ、1973年にMougins で亡くなりました」となる
  • 複雑な文章は避ける: 可能な限り文章を短くするか、分割する。あなたにとって読みにくい文章は、訪問者にとって3倍聞き取りにくく、理解しにくい文章である
  • 専門用語や高度に専門的な語彙は避ける:音声ガイドの目的はミュージアムのテーマを伝え、対象となるお客様に使いやすく、理解してもらえるものである。どうしても専門用語を使わなければならない場合は、それをかみ砕いて説明してください。例えば「このtrompe-l'œil(トロンプルイユ)は私たちに...」ではなく、「この絵はtrompe-l'œil(トロンプルイユ)、いわゆるトリックアート、あるいはだまし絵です。この絵は私たちに...」としてみてください
  • 可能な限り、逸話や楽しい事実を盛り込む:そうすることで、訪問者が集中し、あなたが書いた内容を覚えてくれるでしょう
  • 聴衆に語りかける:例えば「この真鍮の破片は...に使われていました」よりも、「この馬車のドアから出ている真鍮の破片にお気づきですか?これは...に使われていました」の方がよい

必要であれば、各展示の説明をイントロダクション・オーディオ・トラックで補足する

音声ガイドは、個々の展示物の説明に限定する必要はありません。時には、ちょっとした文脈が必要なこともあります。例えば、展示室全体の内容を紹介したり、その背景となる時代について説明したり、展示されているアーティストの作品の概要を説明したりするための補足的な紹介オーディオトラックを作成することができます。特定の展示物とリンクしていない紹介コンテンツは、通常、来館者の集中力と注意力を必要とします。このような補足的な文章は、必要不可欠なものに限定し、特に魅力的で短いものにするよう心がけましょう。


キュレーターやアーティストの声を録音することを検討する

このアドバイスは常に当てはまりますが、特に常設でない展覧会では準備時間が短くて、台本を何週間もかけて書くことができない場合があります。キュレーター、アーティスト、館長からのひと言は、素早く簡単に入手でき、信憑性が高まり、観客が喜びます。

加えて、展覧会のキュレーターは往々にして相応の社会的評価を得られません。多くのキュレーターは、展覧会のデザインや特定の作品の選定に自分の視点を提供する機会を歓迎するでしょう。

他の言語でオリジナルの音声を提供するには、市販されている多くのソフトウェアパッケージのいずれかを使用してテキストを書き起こし、他の言語に翻訳して音楽に合わせる必要があります。元の音声の信憑性を保つために、原語を小音量で流し、翻訳された音声を重ねるボイスオーバーをお勧めします。


音声ガイドの時間を計算する

情報をまとめることは常に難しいですが、長すぎるオーディオトラックは来場者を圧倒してしまいます。自宅では短くても、人ごみの中にいると非常に長く感じるものです。

音声ガイドの音声トラックは2分以内が理想的です。

日本語を1分間話すと約300文字に相当します。したがって、各ステーションの文章は600文字以内にまとめることをお勧めします。

オーディオガイドの全トラックを次から次へと聴く来館者はいません。オーディオガイドの魅力のひとつは、来館者がどの展示物について詳しく知りたいかを選べることです。しかし、全てのトラックを合計すると、オーディオガイドなしで展覧会を見学するのにかかる時間を超えてはなりません。

あなたの美術館では、おそらく来館者の平均滞在時間を計算済みでしょう。オーディオガイドの理想的な長さの目安は、その時間の半分です。来館者が通常1時間美術館に滞在する場合、オーディオガイドの長さは合計30分が理想的な長さとなります。


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